新本格魔法少女りすか

正直言って、タイトルで引いてしまって買いづらい本でした(笑)。西尾維新さんの新刊ですね。率直な感想だけれど、『王道の王道で、身にしみて面白い』本でした。私は予想通りの本だと途中で飽きてしまうのですが、この本もそういう意味では予想通りでした。でね、Amazonのレビューとか見たりすると、どれも表面的な感想ばかり。『何でもっと深く考察する人が居ないんだ〜?』って私は常々思ってしまうのです。
この小説はグロいとかエグいとか、散々言われていますけれど、むしろ全然そんなことはなく、本当にすがすがしいくらい王道の王道、気持ちいい小説でした。内容をちょっとだけ考察すると、まずはタイトル。「新本格魔法少女りすか」だって? もうありきたりの王道じゃないですか!! 哀川潤風に言うと、「気づけ、気づいとけ馬鹿! 思考しろ、考えろ。分からないものははっきりさせとけ、ばか!」とかそんな感じ(笑)。だってさ、私は本を買う前から思ったけど、今どきになって”新本格魔法少女”なんて痛いタイトルをあえてつける作家が居るのか?って。そこであえてこんなタイトルにすることには意味があるわけで、じゃあ一体それは何ってことになるでしょ♪ こんな直球なタイトルを、作品につける理由は何ですか? それは何だと思います? まるで「恐竜戦隊ジュウレンジャー」みたいな感じですけれど、ちょっと考えれば子供だって分かる。それは、『その作品が王道中の王道、決まりきったパターンのお約束の物語だから』に決まってるでしょ! とまあ、そういうわけです。本当に読解力のある人だったら、「じゃあ何故あんたは'りすか'を買うのに躊躇したの? もしかして表紙の絵が痛かったから? プ」と思うわけですが、そうじゃなくて、先の解説にしたって未だタイトルの半分しか解説していないわけで、”りすか”にはノータッチだったでしょ? 私は(メフィストの姉妹誌)ファウストは全く読んでいないです。しかし、もうりすかっていうタイトルだけで十分内容が考察できる。というか想像できて当たり前であって、もうどうしようもないくらいの簡単な推測で読解できてしまうのですが・・・。『りすか』という言葉から私が一番最初にイメージできるものは、リスカ、つまり【リストカット】でしょ!! もう気づいとけ、ばか。って感じです。それで改めてタイトルを見ると、”新”がついているので、『ああ、維新流の王道の物語かぁ。それで、その魔女っ子はリスカーなのね』と此処までは本の内容を見なくとも予想できるわけです。
ずいぶんと前触れが長くなってしまいました(汗)。それで肝心の内容は予想通りの王道の王道の展開で進んでいきます。主人公キズタカは10歳の小学生ながら、非常に聡明で周囲の人間を”駒”と称し、自分の理想世界を築こうとしている野心家で、魔法使いのりすかを最強の駒として、日常の様々な出来事に巻き込まれてそれを解決していく、といった内容です。りすかは私の期待通りリストカット少女で、カッターナイフで自らを傷つけることで魔法を使います(笑)。それで、私は周囲の人間を駒として扱うキズタカに非常に共感が持てるところがあって、面白いのです。別に私は悪巧みなんてしたこともないけれど、きっと私はどこか、主人公キズタカのような部分がありました。キズタカは自分の学生生活に何ら期待せずに、それでいてどこかませた部分があって、それでいて、世の中が幼い頃に想像していた世界とは違うことに早くから幻滅していた部分が私と似ています。だけどね、それでいて私が失ったものは非常に大きい― 大きくて大きくて、私はきっと今後はそのときに失ったものを取り還さなくてはいけない― だから、今後この小説ではキズタカは早い内に刹那の大切さに気づくと良いな〜なんて期待して、楽しんで読んでいます。
それで、この本の終盤では何でりすかがキズタカの言うことを聞いてくれるのか、キズタカは強く疑問に思う。そりゃあ、そうだよ。キズタカはそれをりすかに尋ねます。

どうして・・・僕の誘いに乗ったんだ?僕にはりすかが必要だったけれど―りすかに僕が必要だったわけじゃあ、ないだろう?りすかの気持ちが知りたい。あのとき、あの場所で―どうして僕に答えてくれたのか。ぼくは、それが―分からないんだ。昔は分かっていたのかもしれないけれど・・・それを、僕は忘れてしまったんだ。一体僕はあのとき、あの場所で―りすかにどんなことを言ったんだろう・・・」

そのキズタカの独白に対する、りすかの答えが、本当に清々しいまでの王道の王道で、私は本当に感動してしまいました。だってね、それが本当に王道だったから。それを聞いた後のキズタカの長い長い、独特の理路整然とした考察が、いかにも10歳の少年らしくて本当に好感が持てる箇所でした。
このような小説を、今の時代にこの場所で生み出して頂いた西尾維新さんには感謝しています。非常にうまく現代の若者の心を分かっていて、それをこれほどうまくまとめたストーリーは他にはないだろう、と最大限の評価をしちゃいます♪

最近では『空の境界』とかの青春エンタ系小説に対して「読んでも意味が無い」といった内容の感想を良く耳にするのですが、それは違うよね。そういう感想を求める方こそ、一切の偏見を持たずにもっと本を読んだ方がいい。だって、何の意味を求めるのさ?まさか小説に形而上学的な啓蒙を求めていたり、文学に哲学的な問いの答えを求めているんじゃないの? 違うよ、それは。それは君の中の文学のイメージそのものが、今の社会通念によってある程度捻じ曲げられているからだよ。本気で漫画よりも小説を読んだほうが為になると思っているのだったら、まさにその通り。じゃあ私は何を期待して本を読んでいるかというと(本来ならばそんなことを他人に問うていることが非常に浅はかなことで非現実的ですが)、それは他の分野の作品、映画や音楽と同じくして、現実からさらりと抜け出して現実を再認識するための、ただ然とした『共感』ですね。それが楽しいのではないですか?