左手をつないで

ドルチェ・ヴィスタシリーズの最後の巻ですね。ずっと忘れていたけれど、読んでみた感想を書こうと思います。3作目は2作目に近い形です。幾つかの短編と、1作目からはじまった世界の収束を書いています。どの短編も根幹にあるテーマは同じで、「現実の中に舞い降りた夢、失ってしまった夢のかけらの修復」といったものでしょうか。登場する人物は、皆夢を何処かでなくしたり壊してしまっていて、それを日常で取り戻そうとするけれども、日々の生活を送っているうちにそんなことも忘れてしまって暮らしています。それを修理屋の観点などから書いているのです。あんまりここで書いてしまうとつまらなくなってしまいますね(^^;)
前も書いたかもしれませんが、完全に箱庭世界ですね。文学として得られる抽象性はあまりありませんが、日々の生活に苛まれている登場人物たちの忘れてしまった夢を動かそうとする主人公の姿を通して、以前の夢を思い出した人、修繕しようとして夢が壊れてしまった人を見ていると、自分自身の昔の夢についてふと考えてしまいます。以前の自分はどんなことに熱心だったのだろう?ってね。
物語の最後で1作目へ繋がるわけですが、作者と同じく、私も誰も居ない楽園で夢想している日々は厭だと感じます。再び昔夢見た夢を探し、それを叶えようとしたいから社会の中で生活しているのでしょうか。自分の劣等感をさらけだして、それでも社会が認めてくれるかどうか知りたいから、日々働いているのでしょうか。作者が作中で何度も言っているように、

傷の一つや不具合の一つも、自分を構成する要素なんだ

と分かっていても、それを実感するまでに色々な試行錯誤があります。その試行錯誤の果てに、昔夢見たものを以前と同じくして手に入れられたら、どんなに幸せだろうと思うのです。