野ばら

部屋には文庫本とかテキトーに詰んであります。今日は長野まゆみの”野ばら”を読みました。もう何度も読んでいるので、2時間で読み終わりました。こういう小説を読んだこと無い人がこの本を開くと、はっと驚くだろうなぁなんて思います。文章の色がそこら辺で並んでる俗っぽい本と全然違うんです。長野まゆみさんの初期の小説は、宮沢賢治稲垣足穂の影響を感じます。耽美な美術的側面があるだけでなく、最近の小説には見られない深いメタファーに包まれています。
毎回この小説を読んでいると絵が浮かんで来ます。この本を初めに読んでからもう10年近く経って居ますが最初に読んだときと変わらない読後感で、真っ白な画用紙に墨で点描した荊の檻、真紅の薔薇、ネムの木と足踏みミシン、二匹の猫・・・
この小説の中には鉄で出来た荊のメタファーが出てきます。ココに強く共感するんですよ。私が高校で美術をやっていたとき、よく私は、「あなたの絵は冷たすぎる」と言われ続けていました。長野まゆみさんの作品から感じるイメージも同様にとても冷たい・・・。鉱石に冷たい無機質な道具達。彼女はきっと美術面での己の欠点を知っているからこそ、薔薇の螺子のメタファーを使ったんです。私もね、デッサンで散々冷たい冷たい言われたから、それをどうやって暖かいイメージに変えたかというと、食べ物をモチーフにすることで柔らか味を出したんですね。長野まゆみさんは、植物をモチーフにして大好きな金属、宝石を出すことで”軟”のエッセンスを加えたことが良く分かります。
近頃は深い洞察を必要とせずとも読めるような、分かりやすい解がユーザーに予め与えられているコンテンツが多くなりました。本当にチープなコンテンツばかりになったものです。