抽象線の向こう側

私達は良くマンガのような絵を頻繁に目にします。イラストを描くときに、『つぃ〜』とマンガのイラストのような線を一息に書こうとする人が非常に多く見受けられます。それってとても珍しくて、すごいことだって思うことがないでしょうか? 私はそんな風に線を描く(引く)ことが出来ません。よくよく見てみると、マンガのイラストは高度に抽象化されているのです。実際の写真と比べてみるとその違いが良く判ります。実像を一気に抽象化するような書き方が、ある意味今の日本ではさも当然の如く、それでいて非常に高度に行われています。
シド・ミードという映画の造形家がいます。ブレードランナーの美術デザインを手がけたことで高名です。彼のそのデザインセンスは誰もが認めるほど圧倒的で洗練されたものでした。有名な話ですが、日本で彼は∀ガンダムというアニメのロボットデザインを手がけました。もちろん彼だからスタイリッシュな近未来的デザインであるだろうと思ったのですが、誰もが予想していなかったようなヒゲガンダムになってしまいました。それは彼がセンスが無かったからではなくて、その2次元の世界に垣間見える抽象線が引けなかったと、ただそれだけのことです。
何かイラストを描く際に、一本調子で「つぃー」と描くことは、実はその対象物に対して抽象線を引いていることと同じです。実は文章を書くことも同様に抽象線を引くことなのだけれども、とりわけイラストに限って言えば、そこに文化の差異を見て取ることが出来るのです。今では日本国内にはマンガが遍在しているけれども、どれをとってみても個性を感じ取ることが出来る― それは正にマンガそのものが抽象線を持ってして描かれているから。