黒須†ちゃん寝る ( CROSS†CHANNEL 感想 )

やりましたよー♪ これを勧められたのは、もう大分前の事ですネ。大学で同じ研究室だったhirokyくんから勧められたのですが、色々あってもう1年半くらい経ってしまいました(笑)。
さっそく感想ですが、『たかがゲームなのに、どうしてここまで良く出来ているのか分からない』くらいに良く出来ています! 初めの一周目は伏線が多すぎて意味が分かりませんが、二周目からは『なるほど』と感心しっぱなしです。このシナリオライターは天才です。間違いなく。才能ある人の作品に触れるのは、絵であっても音楽であってもゲームであっても好きです。キャラ別に見ると、霧ちんが個人的に好きでした。
このゲームの良さは、完璧すぎない完璧さを守っているところです。シナリオにケチをつけようと思えば、「なぜ祠だけループから外れるのか?」とか、「七香は何故あの世界にいるのか?」とか沢山あるでしょう。でも、マニアは徳にはならない。それをシナリオライターが良く理解している。アレ以上ディテールを細かく書くと、マニアは喜ぶかもしれないけれど、一般受けしないし解釈が狭められてしまって、一部の人から反発を受けるでしょう。

みなさん、生きてますか?

の解釈ですが、これはシナリオの抽象度が高いため、如何様にも解釈できます。個人個人、思いのままで構わないと思います。私はこんな風に思います。

[黒須]
他人に接触するということは、傷つけあうことなんだよ。でも、誰もが相手の急所、弱点を分かっているから、わざと其処を外して(言葉で)切り付けあう。

との台詞があったかと思います。群青にやってくる人たちは、この加減が出来ない人なのです。衝動的に他人を傷つけて壊してしまう恐れがある。肉体的にも精神的にも。この作品をやって、実際に自分自身の、あなた自身の”群青色”について考えない人はいないでしょう。誰もが自分の群青色を考えてみるはずです。それで、ふとこう思う。『このゲームの登場人物は、群青送りになるほど壊れていたのか?』ってね。私も思うのですが、実は登場人物の誰もが正常の範囲の人でしょう。事実は小説より奇なり、です。でも、登場人物の一人である”霧”が主人公に向かってこういいます。

一体あなたの何処がおかしいのか初めはわからなかった。どうして適応指数80%を超えているのか。でも、今なら分かる。あなたほど完璧な魔物は見たことがない!

その完璧性は、主人公の万年躁状態にあります。世界が破綻した状況であっても躁状態。霧があれだけ嫌っていても構ってくる。誰に対してもいつも躁状態である。これは悪魔じみています。それでも主人公はこう思うのです。

みなさん、生きてますか?

言葉は相手を傷つける。コミュニケーションを図るには相手を傷つけるしかない。ループ世界の中で、完璧なハーレムエンドが望めないことが分かったとしても、彼は全員がいつものようにコミュニケーションしあう日常を望みます。だから、彼は一人残って全員を救ったのです。そこにヒロイズムがないのが格好良い。

みなさん、生きてますか?

この言葉には、黒須自身の願望や怒り、アンチテーゼが垣間見えます。自分が傷つくのは痛いさ。確かにコミュニケーションしなかったら、痛くはない。相手だって壊れない。群青の生徒のように、自分の殻に閉じこもって外の世界をシャットアウトしてしまった人々を見て、まるで死んでいるように感じてしまったから、こんな台詞が出たのでしょう。もちろん、先ほど言ったように如何様にも解釈できるので自由に想像して構わない部分です。
痛くも痒くもない生活は、結局死んでいるのと変わらないのです。それを皮肉った冗談が作中に垣間見えます。株の失敗とか(笑)。チャンネルをクロスするっていうのはコミュニケーションのメタファーでしょう。容姿のコンプレックスを持ちながらも果敢にコミュニケーションを図る主人公が健気に思えてきます。

[美希]
先輩はとても強いです。目標に向かって一心不乱に努力するところとか。私は先輩ほど強くないですし頑張れません・・・

でもね、人は初めから強くはないんですよね。その証拠に美希は最終的に最も強くなります。人はどこかで失敗して、初めて痛みが分かる。その痛みのことを良く”後悔”と言います。主人公が周りの仲間たちを説得するときは、相手の一番弱い部分、急所に触れる形でコミュニケーションを図ります。結果、相手は主人公と打ち解けて元の世界へと帰れるわけですが、そこで今までの自らの行動を後悔する。でも、気づいたときには主人公は居ないんです・・・それがコミュニケーションの本質なのかもしれません。

あと、余談ですが、このシナリオは分かりやすいメタファーと難解なメタファーが要所要所にあって、良く出来ていると感心しました。曜子に七香なんていう名前はうま過ぎます。